2018年10月14日、鍵のおはなし

‪アメ村、まんだらけの横でボーッとしていると明らかに困ってそうな女性を見つけた。

‪無法地帯になっている駐輪スペース。女性は白い自転車の回りで右往左往。‬
‪あぁ、と瞬時に理由を察し、「あの、足元に鍵落ちてますよ」と言った。‬
‪しかし女性の表情は変わらず、‬
‪「これ、私のじゃないんですよ」と。‬
 
 
‪話を聞くと、この白い自転車は間違いなく自分のものだそうだ(その自転車には彼女のマンション専用のシールが貼ってあった)。‬
‪しかし、自分の持っている自転車の鍵を何度差し込んでもロックを解除できないのだ、と。‬
‪長い間使っているからだろうか、鍵がうまくかみ合わないのかと思い何度か試してみたがロックは解除できない。‬
 
‪さらに、なにより奇妙なのが、‬
‪その自転車の脇には明らかに自分のものではないキーケースがあり(冒頭で落ちてますよ、と指摘した鍵だ)、それを差し込むとガチャン、とロックが解除できてしまうのだ。‬
 
‪そのキーケースには無骨なシルバープレートが付いているだけだが、彼女の趣味嗜好に合わないものというのは分かる。彼女はシルバープレートというよりシルバニアファミリーみたいな格好だった。‬
 
‪ミナミのど真ん中で、1人何度も開かない自転車のロックをガチャガチャするのは気が引けていたのか、僕が現れてからは何度も自分の鍵を自転車に出し入れしていた。尚ロックは解除できず。‬
 
 
‪一通り話を聞いたのち、特に気が利いたことも言えなかったので「気持ち悪いですねぇ」と総括した。‬
‪「ですよね」との同調ののち、変な空気が数秒流れ、僕はもう、その持ち主不明の鍵を使うしかないのでは、と伝えた。‬
‪「えー…」やや躊躇いの表情。「でもそれしかないですよ」「まぁそうですよね、気持ち悪いなぁ」‬
 
‪彼女はシルバープレート付キーケースから鍵を取り外し、自転車に乗って帰っていった。
 
話はこれでお終い。一連の出来事に、自分も居心地が悪くなってスタンダードブックストアに移動した。
 
以下は推測。
 
彼女が多重人格である、完全に類似した自転車がもう一つあった、エトセトラ。
色々考えた中で現実味があったのは、彼女にはストーカーがいたのではないかということだ。
 
 
リング錠を外し新しいものをつけるまでは、最短10分で出来るという。
自転車のリング錠を壊し、新しいものをつける。そうすると既存の鍵は使えなくなり、新しい鍵のみが使用できる状態になる。
時間的には可能性があるが、都合よく同じタイプのリング状を持っている可能性は低い。あとリング錠もタダではないし、自転車を使えなくするいたずらなら、わざわざ鍵を置いて逃げるようなマネはしない。
 
でもストーカーであれば。
同じタイプのリング錠をリサーチして購入した可能性がある。
&、ストーカーは彼女の自転車の鍵を必然的に手に入れることもできる。
 
 
となると、
僕はもう、その持ち主不明の鍵を使うしかないのでは、と伝えた。‬
‪「えー…」やや躊躇いの表情。「でもそれしかないですよ」「まぁそうですよね、気持ち悪いなぁ」‬
この展開は、ストーカーが望んだ展開そのものだったのではないだろうか。
 
 
以上、先輩にこの話をしたら「プチ世にも奇妙なですね」、と言われたので、
プチ世にも奇妙なでございました。
 
今後、この話が面白くなるか、或いはもっと気持ち悪くなっているかは、
僕の手にある自転車の鍵にかかっているかもしれません。
 
と、いう嘘オチ。